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あの頃いちばん仲が良かった女の子

あの頃いちばん仲が良かった女の子は、キャバ嬢だった。──といっても、私はキャバクラという場所に、一度も足を踏み入れたことがない。「あなたみたいな人は、絶対キャバクラ行かない方がいいよ」

あの頃いちばん仲が良かった女の子は、キャバ嬢だった。
──といっても、私はキャバクラという場所に、一度も足を踏み入れたことがない。
「あなたみたいな人は、絶対キャバクラ行かない方がいいよ」
と、彼女はさらりと言った。
あの“絶対”には、いろんな意味が詰まっていたと思う。
たとえば──
・あなたは、女の子を“商品”として見るタイプじゃない
・下心より先に、おしゃべりで時間が溶けるタイプだ
・そもそも、2時間で1万円以上払うことに怒り出しそう
つまり彼女は、“キャバクラ向きではない男”としての私を、ちゃんと見抜いていた。
そして、私はたぶんそういう男だった。

でも彼女は、キャバクラにいた。
指名をもらい、ドレスを着て、ボトルを空けて、自然な笑いを浮かべる。
その仕事が、すごく楽しいと言っていた。
そこそこいい大学の心理学科を卒業して、
内定も決まっていた。
そのまま普通に就職するか、
キャバクラで働くか。
彼女は迷っていた。
私も相談された。
そして彼女は、キャバ嬢の道を選んだ。
それから3年以上。
ほんとうに一度も休まず、働き続けているという。
ずっと黒髪のロングストレート。
ネイルをしているのも見たことがなかった。
なんというか、
私が勝手に持っていた「キャバ嬢」のイメージとは、
少し違う人だった。

私は彼女の働く店を知らないまま、彼女といろんなことを話した。
お互いの仕事の話はもちろん、
音楽のこと、実家のこと、
YouTuberのヒカルが好きだという話も。
お店が終わったあと、始発でうちに来て、
そのまま爆睡して帰っていったこともあった。
何をするでもなく、
本当にただ寝に来ただけ、みたいな朝もあった。
一緒に映画を3本連続で観た日もあった。
もちろん、自然とそういう関係にもなっていた。
構えるでもなく、求めるでもなく、
当たり前みたいに。
そんな感じだった。
一度、彼女のお父さんが亡くなったあと、
二人で回転寿司を食べながら、彼女が泣いたこともある。
いろんなことがあったみたいだ。

彼女は、決して私に「店に来て」とは言わなかった。
私も、
「会いに行こうか?」
なんて聞かなかった。
たぶんどちらも、
それは違うとわかっていた。
店で会う彼女と、
私が知っている彼女が、
別のものだったのかはわからない。
たぶん、ほとんど変わらない気もする。
「キャバ嬢の99%は嘘つきだ」
YouTuberのヒカルが、そんなことを言っていた。
まあ、そうなのかもしれない。
客商売なのだから、
本当のことだけ言って仕事になるわけでもないだろう。
でも、どんな仕事をしていたって、
そこにいるのは、一人の人間だ。
キャバ嬢になる前から、
彼女は彼女だったし、
キャバ嬢になったあとも、
たぶん彼女は彼女だった。
私たちは、まるで中学校の帰り道みたいに、
ふつうに仲良くなったのだ。

彼女はいつも、帰り際にこう言った。
「じゃあね、また頑張ろう! イエーイ!」
そして、ハイタッチをして帰る。
彼女のスマホのホーム画面には、
大きく、
「背筋」
と書いてある。
気をつけているらしい。
だから彼女はいつも背筋を伸ばして、
手を大きく振って歩いて、
帰っていく。
その後ろ姿を、
私は何度も見送った。

私は、いまだにキャバクラという場所に行ったことがない。
今さら行く理由もない。
だって、あの頃いちばん仲が良かったキャバ嬢が、
「あなたみたいな人は、行かない方がいい」
って言ってたから。